2026年8月から9月にかけて、南あわじ市商工会主催の「生成AI連続セミナー」(全3回)で講師を務めました。会員事業者の皆さんを対象に、Googleの生成AI「Gemini」を使い、知るところから実際に使うところまでを3回かけて進める講座です。
私は中小企業診断士として、また公的支援機関で経営相談を受ける立場から、日々中小企業のDX・生成AI活用のご相談に関わっています。このレポートでは、各回の内容と、アンケートから見えてきたことをお伝えします。
知る → 守る → 攻める。
3回で「自分の仕事にAIを使う」ところまで進みました。
開催概要
- 主催:南あわじ市商工会(会員事業者向け・受講無料・全3回の参加が受講条件)
- 日程:第1回 8月10日(月)/第2回 8月24日(月)/第3回 9月3日(木)、各回14:00〜16:00
- 会場:南あわじ市商工会 2階大会議室
- 使用ツール:Gemini。有料版を持っていない方も、できるだけ無料版で手を動かせるように設計しました
「知る→守る→攻める」の3回構成
3回は、それぞれ役割を変えて組み立てました。いきなり便利な使い方から入るのではなく、まず限界を知り、次に日々の業務で使い、最後に売上につながる使い方へ進む順番です。
生成AIを正しく知る ― 「限界を知る」回
入門編として、生成AIの仕組みと特性、ハルシネーション(AIがもっともらしい誤りを答えること)、ツールの選び方、学習に使わせない「オプトアウト」設定までを座学で扱いました。
冒頭で紹介したのが「Workslop(ワークスロップ)」です。生成AIで作った、一見それっぽいけれど中身のない仕事のこと。Harvard Business Review(2025年9月)に掲載された米国の調査では、過去1か月にこれを受け取った人が41%にのぼります。「使えばいい」ではなく「正しく使う」必要がある、というのが第1回の出発点です。
後半は、紙とペンだけで「自分の業務で時間がかかっている作業」を書き出すワークを行いました。この回ではAIを使いません。書き出した作業を、次の回で実際にAIで解決する流れにしています。
業務を効率化する ― 「守り」の回
この回のゴールは「Geminiを使って、実際に1つ、自分の仕事を効率化する」です。たくさん覚えて帰るより、「これは明日から使える」と思えるものが1つあるほうが大事だからです。
頼み方の基本(5つの要素)を復習したうえで、メール作成のハンズオン、Deep Research(AIが複数のWebサイトを調べてまとめる機能)を使った競合・市場調査、Gemini Notebookで資料を読み込ませる使い方などを体験しました。
ハンズオンはどれも「講師のデモ → 全員で同じ操作 → 自分の仕事に置き換え」の3ステップで進めました。いきなり自分の仕事で試すと、つまずいたときに原因がわかりません。同じ操作を全員で一度やってから置き換えると、手が止まる人がぐっと減ります。
集客・販促に使う ― 「攻め」の回
最終回のゴールは「自社の販促素材を1つ、実際に作って持ち帰る」です。SNS投稿文の作成に続いて、後半は画像生成に取り組みました。
画像は「何を・どんな雰囲気で・どんな構図で・どんな色みと光で」の4つの要素を1文に並べるだけで、精度が大きく変わります。一方で、あえて失敗を見せたのが画像への文字入れです。日本語が崩れる、頼んでいない文字が増える、「そこだけ直して」と頼むほど画像全体が崩れていく。実務でいちばんつまずく場面を、デモでそのままお見せしました。
そこでお伝えしたのが「文章は会話で磨く。画像は書き直す」というコツです。文章は追加の指示で少しずつ良くなりますが、画像は修正を重ねるほど崩れます。直したいときはプロンプト(AIへの指示文)を最初から書き直し、文字はCanvaやWordで後から乗せるほうが速くてきれいです。
最後に、3回の締めくくりとして「来月から、Geminiで何を続けるか」を今日・今週・今月の3段階で書き出し、数名の方に発表していただきました。
アンケート結果 ― 満足度は回を追って上昇
各回の終了後にアンケートをお願いし、延べ44名のうち24件の回答をいただきました。
- 満足度(5点満点):第1回 4.17 → 第2回 4.30 → 第3回 4.50と、回を追って上がりました。全体の平均は4.33で、2点以下の「不満」は24件中ゼロでした
- 時間配分:24件中22件(91.7%)が「ちょうどよい」。120分(休憩込み)にハンズオン2本という組み立ては、この規模に合っていたようです
- 難易度:第3回は8件中7件が「ちょうどよい」。一方で第1回は6件中3件が「簡単」と答えており、座学中心の初回は少し易しすぎたかもしれません
回答数が少なく、回ごとに答えた方も違うため、あくまで傾向として読んでいます。それでも、成果物を作って持ち帰る第3回の評価がいちばん高かったことは、「知識より、形になったもの」が満足につながるという手応えになりました。
アンケートから見えた3つのこと
自由記述は数件と多くありませんでしたが、中身はとても濃いものでした。講師として、また普段から中小企業の相談を受ける立場として、特に考えさせられた3点をご紹介します。
「未知の世界」― 何ができるのか、輪郭がつかめない
別々の回の、別々の方が、それぞれ「未知の世界」という言葉を使っていました。
これは「知識が足りない」という話ではないと受け止めています。生成AIで何ができて、自分の仕事のどこに使えるのか、その輪郭がまだつかめていない状態です。だからこそ、操作を教える前に「自分の業務を書き出す」ことから始めました。何に使うかが見えれば、AIは未知の世界ではなくなります。
「このデータ、入れて大丈夫ですか?」― 設定だけでは不安は消えない
第2回のあと、請求書のPDFをExcelにしたい、出勤表から給与計算をしたい、という具体的な要望とあわせて、こんな質問をいただきました。
オプトアウトの設定は第1回で扱っていました。それでもこの質問が出たということは、設定の手順は伝わっても、「何を入れてよくて、何がダメか」という判断の基準までは伝わっていなかったということです。講師として大きな学びでした。この質問への答えは、次の章でまとめます。
「AIは若い者に任せている」― 経営者に必要なのは操作より「決め方」
個別相談の欄には、「実際にAIは若い者に任せているという感じです」という一言もありました。
現場の若手が使い始めるのは、とても良いことです。ただ、どの業務に使うか、どこまで任せるか、どんなルールで使うかを決めるのは経営者の仕事です。経営者に必要なのは操作のスキルではなく、こうした「任せ方」と「決め方」だと考えています。
「業務データを入れて大丈夫?」への答え
当日に答えきれなかったこの質問に、ここでお答えします。まず押さえていただきたいのは、オプトアウトは「学習に使わせない」ための設定であって、「何を入れても安全」という意味ではないということです。
そのうえで、判断の目安は次のとおりです。
- 入れてよいもの:自社のホームページやチラシなど、すでに公開している情報。個人や取引先が特定できない一般的な内容
- ひと手間かけてから入れるもの:請求書や見積書など、取引先名や金額が入るもの。社名や金額を伏せたり、ダミーの値に置き換えたりしてから使います
- 無料版・個人のアカウントには入れないもの:従業員の給与や勤怠、お客様の個人情報、取引先から預かった秘密の情報
請求書の処理や給与計算のように、業務データそのものをAIで扱いたい場合は、入力したデータが学習に使われない法人向けのプランを使うことが前提になります。あわせて、社内で「入れてよい情報」を決めておくことが欠かせません。プランごとの扱いは利用規約で変わるため、使う前に必ずご自身で確認してください。
ツールごとのセキュリティの考え方は、「Gemini活用は『点』と『面』で使い分ける」の記事でも詳しく書いています。
講師から ― 続ける人と続かない人の差
3回を通じてお伝えしてきたのは、「AIが下書きを作り、人が必ず確認する」という使い方です。便利さと確認は、いつもセットです。
もう1つ、最終回にお伝えしたのが、続けるための工夫です。続ける人と続かない人の差は、才能ではなく「予定に入れたかどうか」にあります。セミナーを受けた方も、これから始める方も、まずは次の3つから試してみてください。
- 今日:セミナーで作った投稿文や画像を、1つ実際に使ってみる
- 今週:同じ作業をもう1回やる。またはGem(自分専用のAIを作る機能)を1つ作る
- 今月:週に1回、「AIで作る時間」を予定表に入れる
今回のアンケートでは、事務処理への活用や、経営者向けの「決め方」を扱う回へのヒントもいただきました。いただいた声は、次の企画に必ず活かしていきます。南あわじ市商工会の皆さま、ご参加いただいた皆さま、全3回、本当にありがとうございました。
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