基幹システムは入っている。クラウドサービスも何本か契約している。それなのに、月末になると誰かがExcelを開いて、システムの画面を見ながら数字を打ち込んでいる。
この作業、御社にもありませんか。
この記事では、20年以上ITベンダーで基幹システムの開発・導入に携わり、現在は中小企業診断士として公的支援機関の相談員も務めている立場から、「システムとExcelのあいだに残る手作業」がなぜ何年も放置されるのか、そしていま、それを解消する条件が変わったことをお話しします。
「システムを入れたのに、Excelが減らない」
ご相談でよく伺うのが、次のような作業です。
- 基幹システムから出力したデータを、報告用のExcelに貼り直して整形する
- クラウドサービスAの情報を見ながら、クラウドサービスBに同じ内容を入力する
- 現場から届いた紙の作業記録を、事務担当がまとめてシステムに入力する
- 複数の担当者から集めたExcelを、1つのファイルに手作業で結合する
いずれも、それぞれのシステムは正しく動いています。壊れているわけではありません。ただ、システムとシステムのあいだ、システムと紙のあいだに、人間が入って埋めているのです。
この作業が、何年も改善されない3つの理由
理由1 誰の目にも入らない
転記作業は、会社の数字のどこにも出てきません。売上でも経費でもないので、決算書を見ても発見できない。
担当者も、わざわざ「この作業に毎月半日かかっています」とは言いません。悪気があるわけではなく、それが自分の仕事だと思っているからです。
理由2 困っている人と、決める人が別
手作業で苦労しているのは現場の担当者です。一方で、お金を使う判断をするのは経営者です。
この2人のあいだで話題に上がらないまま、何年も続いてしまう。「聞かれなかったから言わなかった」という状態です。
理由3 ベンダーに頼むと「小さすぎる」
これが、いちばん根深いところです。
ベンダー側にいた経験から申し上げると、システム開発会社が1件の案件を受けるには、営業・見積・要件確認・契約・開発・テスト・納品という工程が必ず発生します。この固定費があるため、数十万円規模の依頼はどうしても採算に乗りません。
断られるか、あるいは固定費を織り込んだ結果、数百万円の見積が返ってくる。どちらにしても、話はそこで止まります。
結果として、「小さすぎて誰も引き受けてくれない領域」が生まれます。転記作業は、たいていここに落ちています。
その作業、年間で何時間になっていますか
一度、時間で数えてみることをおすすめします。
たとえば月に4時間かかる転記作業があるとします。年間で48時間。1人分でも、丸6日以上の仕事です。
これが3人分あれば、年間144時間。人件費に換算すれば、それなりの金額になります。しかも、この作業は1円も価値を生みません。数字を右から左へ移しているだけだからです。
さらに見落としがちなのが、リスクの側面です。手作業には必ず入力ミスが起きます。そして「その作業ができるのは事実上ひとりだけ」という状態になっていることが、非常に多い。その方が辞めたり長期で休んだりすれば、業務が止まります。
いま、自動化が割に合うようになった理由
ここ数年で、前提が2つ変わりました。
1つは、実装のコストが下がったことです。生成AIを開発に使うことで、以前なら数週間かかっていた規模のものが、数日で形になるようになりました。ベンダーが受けられなかった小さな案件が、採算に乗る側へ移ってきています。
もう1つは、特別なシステムを買わなくてよくなったことです。Google Workspaceなど、すでに社内で使っている環境の中に、簡単な仕組みを作る手段(Google Apps Scriptなど)が標準で備わっています。追加のライセンス費用が発生しないケースも多くあります。
つまり、「困ってはいたが、頼むほどではない」と諦めていた作業が、いまなら現実的に解消できるようになったということです。
実例:交通費精算を、規程ごと整えた話
自社で実際にやったことをご紹介します。
当社では以前、交通費の精算をExcelと紙の往復で処理していました。申請する側も、確認する側も、そこそこ手間がかかっていました。
そこでExcelの様式と、集計を自動化する仕組みを整えました。ここまでは、よくある自動化の話です。
ただ、作業をしていて気づいたことがあります。精算が面倒だった原因の半分は、仕組みではなくルールの側にあったのです。
どこからが出張なのか。日当をどう扱うのか。この線引きが曖昧なままだと、どれだけ入力画面を作り込んでも、申請する人は毎回迷います。判断に迷う時間は、システムでは減らせません。
結局、出張旅費規程そのものの改定案もあわせて作りました。仕組みとルールの両方を直して、ようやく本当に楽になりました。
自動化の相談を受けたとき、私がまず業務の中身を聞くのは、このためです。作る前に、そもそも要らない作業ではないかを確かめたほうが早いことが、しばしばあります。

何から手を付けるか
すべてを一度に自動化する必要はありません。優先順位は、次の4つの掛け算で決めます。
- 頻度……毎日か、毎週か、毎月か
- 1回あたりの時間……10分か、半日か
- 関わる人数……ひとりか、部署全員か
- ミスの起きやすさ……間違えたときの影響が大きいか
この4つが大きいものから順に着手すれば、効果を実感しやすくなります。逆に「いちばん腹が立つ作業」から手を付けると、労力のわりに効果が出ないことがあります。
明日からできること:転記の棚卸し
紙1枚、あるいはスプレッドシート1枚で始められます。
- 「転記」「再入力」「貼り付け」「手集計」をしている作業を、思いつくかぎり書き出す。事務担当の方に聞くと、驚くほど出てきます
- それぞれに、頻度・1回の時間・関わる人数を書き込む
- 年間時間を計算する。頻度 × 時間 × 人数で出します
- 上位3つに印を付ける。まずはそこだけ考えます
この一覧ができれば、その時点で価値があります。見えていなかったコストが、初めて数字になるからです。
まとめ
システムとExcelのあいだに残る手作業は、誰の目にも入らないまま、毎年確実に時間とお金を消費しています。
放置されてきた最大の理由は、担当者の怠慢でも経営者の無関心でもなく、「規模が小さすぎて、引き受けてくれる相手がいなかった」ことでした。
その前提は、いま変わりつつあります。まずは転記の棚卸しをしてみてください。そのうえで、どれから手を付けるべきか判断がつかない場合は、30分の無料相談でご一緒に整理します。書き出した一覧をお持ちいただければ、その場でおおよその見当をお伝えできます。