外部CIO・DX/IT顧問

AIで安くなる工程、変わらない工程

「AIで開発が安くなる」は本当か? | 元ベンダーが見積もりの中身から考える

「AIで作れば、システム開発ってもっと安くなるんですよね?」。最近、経営者の方からこう聞かれることが増えました。

私は中小企業診断士として、また公的支援機関で経営相談を受ける立場から、日々システム導入やDXのご相談に関わっています。その前は、ITベンダー側で20年以上、基幹業務システムの開発・導入に携わってきました。そして今は、このホームページや社内の業務アプリを、自分で生成AIと一緒に作っています。

見積もりを出す側と、AIで作る側。両方を経験した立場からお答えすると、安くなる部分は確かにあります。ただし、見積もりの全部が安くなるわけではありません。この記事では、どこが安くなり、どこが変わらないのかを、見積もりの中身から整理します。


開発費のうち、プログラミングは一部にすぎない

「AIでプログラムが書ける」と聞くと、開発費が丸ごと下がるように思えます。しかし、システム開発の費用は、プログラムを書く作業だけでできているわけではありません。

見積書の読み方の記事でも紹介したとおり、システム導入には次のような工程があります。

  • 要件定義(システムに何をさせるかを決める)
  • 設計・開発(プログラムを書く作業はここに含まれる)
  • テスト
  • データ移行(今のシステムやExcelのデータを新しいシステムに移す)
  • 操作教育・稼働の立ち会い

さらにその裏側には、打ち合わせや進み具合の管理、関係者との調整といった仕事が、プロジェクトの最初から最後まで続いています。生成AIが大きく速くするのは、このうちの「書く」作業が中心です。

安くなる部分と、変わらない部分

工程ごとに見ると、生成AIの効き方ははっきり分かれます。

安くなりやすい 変わりにくい
プログラムを書く作業 何を作るかを決めること(要件定義)
画面の試作品を作ること 関係者の調整と、「やらないこと」の判断
テストデータや手順書の下書き 今のシステムやデータとのつなぎこみ・移行
技術的な調べもの 本番で動かし続ける責任(障害対応・保守)

右側に並んでいるのは、どれも人が判断し、責任を持つ仕事です。AIは下書きを速く作ってくれますが、何を作るかを決めることも、作ったものに責任を持つことも代わってはくれません。

これは私自身の実感でもあります。このホームページを生成AIと作ったとき、最初の制作だけでやり取りは500回を超え、改善でさらに300回を超えました。使っているテーマ固有のクセにも何度もぶつかり、試しては直す、の繰り返しでした。難しかったのはコードを書くことではなく、「何を作りたいか」を自分の言葉で整理することでした。その経緯はホームページ制作の記事に書いています。

「AIで作ったから安い」に潜むリスク

AIを使うことで、見積もりが下がること自体は歓迎すべきことです。ただ、安さの理由によっては注意が必要です。

  • 確認が省かれていないか……速く作れることと、正しく作れることは別です。AIが書いたものを人が確かめるテストやレビューを省いた安さは、あとで高くつきます
  • 中身を説明できる人がいるか……AIが作った部分を、ベンダーの担当者が説明できない状態は危険です。作った人がいなくなったシステムの相談は、ベンダー時代に何度も受けました
  • データの扱いは大丈夫か……開発の途中で、御社の業務データや顧客情報をどのAIサービスに入れているのか。ここも確認しておきたい点です
  • 作ったあとの費用は残る……作る費用が下がっても、動かし続けるための保守の費用はなくなりません

「作った人がいなくなる」問題は、社内で作る場合も同じです。社員が自分で作るときの判断の目安は「業務アプリの内製化はどこまでやるべきか」でまとめています。

変わるのは、発注する側の力

生成AIで大きく変わるのは、実はベンダー側よりも、発注する側かもしれません。

今は発注する側も、生成AIを使って、業務の流れを書き出したり、要望を整理したり、見積書を読み合わせたりできます。以前なら外部の専門家に頼まないと難しかった「要求の整理」に、自社で手をつけられるようになりました。

先ほどの表の右側、つまり「何を作るかを決める」部分を自社で固められる会社ほど、AI時代の開発費は下がっていきます。逆に、ここをベンダーに預けたままだと、作る作業がいくら速くなっても効果は限られます。要件を固めるための打ち合わせや手戻りの費用は減らないからです。「システム導入が失敗する本当の理由」で書いた、要件定義の前に決めておく3つのことが、ますます効いてきます。

もう1つの変化は、小さく作って試すことが現実的になったことです。いちばん困っている1画面だけを作り、使ってみてから次を決める。当社の案件管理も、そうやって作ってきました。その記録は案件管理を自作した話にまとめています。

明日からやれること:見積もりで「AIでどこを速くしているか」を聞く

ベンダーから「AIを使うので、この金額でできます」という見積もりが来たら、次の3つを聞いてみてください。

  1. AIを使っているのはどの工程か……それによって、期間や人数がどう変わったのか
  2. AIが作った部分は、誰がどう確かめるのか……テストやレビューの方法と担当者
  3. 完成したあとの修正や保守は、誰が担当するのか……その費用はいくらか

この3つにはっきり答えられるベンダーなら、AIをうまく使いこなしている可能性が高いと言えます。答えがあいまいなら、安さの理由をもう一段深く確かめたほうが安心です。

まとめ

「AIで開発が安くなる」は、半分は本当です。

  • 安くなるのは……プログラムを書く作業、試作品づくり、下書きや調べもの
  • 変わらないのは……何を作るかを決めること、調整と判断、移行、本番で動かす責任
  • 差がつくのは……「何を作るか」を自社で固められるかどうか

AIで作る工程が速くなったぶん、作る前の準備と、作ったあとの確認の価値が上がっています。「この見積もりのAI活用は妥当か」「自社でどこまで準備すればいいか」。迷ったときは、作る側と発注する側の両方の立場から、一緒に整理します。

AI時代の開発投資、一緒に見極めます

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