外部CIO・DX/IT顧問

案件管理をスプレッドシートとGASで作った話

案件管理をスプレッドシートとGASで作った話|自作の記録

今回は、お客様の事例ではなく、自社の話をします。

当社では案件の管理に、スプレッドシートとGoogle Apps Script(Googleのサービス上で動く簡単なプログラム。以下GAS)で自作した仕組みを使っています。毎日使っているものです。

この記事では、20年以上ITベンダーで基幹システムの開発・導入に携わり、現在は中小企業診断士として公的支援機関の相談員も務めている立場から、なぜ自作したのか、作ってみて何が分かったのかを、そのままお話しします。

「自社でも同じようなものを作れないか」とお考えの方の参考になれば幸いです。


市販の営業管理ツールが、合わなかった

最初は既製品を検討しました。案件管理のクラウドサービスは数多くありますし、無料で試せるものもあります。

しかし、いくつか触ってみて、どれも同じところで引っかかりました。

機能が多すぎるか、自社の売上の立ち方に合わないかのどちらかだったのです。

特に合わなかったのが、売上の計上の仕方でした。当社の仕事には、一括で請求するものと、顧問契約のように毎月継続して請求するものがあります。研修のように、実施は今月でも入金は翌々月という案件もあります。

多くのツールは「受注金額」を1つ入れる作りになっていて、この「いつ、いくら請求して、いつ入金されるのか」を素直に表現できませんでした。

結果として、案件の進捗はスプレッドシート、売上の見込みは別のファイル、という分裂した状態が続いていました。いちばん知りたい「来月いくら入ってくるのか」が、すぐに出てこないのです。

スプレッドシートをデータベースとして使う、という選択

そこで自作することにしました。ただし、本格的なシステムを作るつもりはありませんでした。

選んだ構成は、次のとおりです。

  • データの置き場所……Googleスプレッドシート
  • 画面と処理……GASで作ったWebアプリ
  • 追加費用……なし(すでに使っている環境の中で完結)

スプレッドシートをデータベース代わりに使う方式には、はっきりした利点があります。いざとなれば表を直接開いて中身を確認できることです。

専用のデータベースを使うと、何かおかしいときに中を覗くのに手間がかかります。スプレッドシートなら、行を見れば分かる。小規模な仕組みでは、この安心感が効いてきます。

もちろん万能ではありません。データが数十万行に達するような規模では向きませんし、同時に大人数で使う用途にも限界があります。ただ、自社の案件管理くらいの規模なら十分でした。

実際に作ったもの

いま動いているのは、こんな機能です。

  • カンバンボード……引合 → 提案・見積 → 受注 → 進行中 → 完了、と案件をドラッグして動かせる画面。「受注」に移すと、受注日と金額を入力する画面が開きます
  • 予定管理……売上・請求・入金の予定を自動で作ります。毎月請求の契約なら、契約期間分をまとめて生成します
  • 月次ダッシュボード……過去3か月から先12か月までの売上・請求・入金を一覧で表示。数字をクリックすると、その内訳の案件まで降りていけます
  • ヨミ按分……引合や提案段階の案件を、確度に応じて割り引いて見込みに反映します
  • タスク管理……案件ごとのタスクと、全案件を横断した期限順の一覧
  • そのほか、毎日の自動バックアップ、スマートフォン対応など
案件管理アプリのカンバンボード。引合・提案見積・受注・進行中・完了の各レーンに案件カードが並び、請求状況やタスク件数のバッジが付いている
カンバンボード。カードに請求・入金の状況やタスクの残数が出ます(画面はサンプルデータに差し替えています)
案件管理アプリの月次ダッシュボード。売上・請求・入金を月別に積み上げた棒グラフと、月次のクロス集計表を表示している
月次ダッシュボード。濃い色が受注以降の確定分、薄い色が引合・提案段階の見込み分です(同)

これで、最初の課題だった「来月いくら入ってくるのか」が、画面を開けば分かるようになりました。

作ってみて、いちばん分かったこと

ここが、この記事でお伝えしたい本題です。

要件は、使いながらでないと出てこない。

最初に作ったのは、カンバンボードだけでした。案件を並べて、状態を動かせるだけの画面です。これなら短期間で形になります。

しばらく使ってみて、すぐに気づきました。「進捗は見えるようになったが、結局いつ入金されるのかが分からない」。それで予定管理を足しました。

予定が入るようになると、今度は月ごとの合計が見たくなります。それで月次ダッシュボードを作りました。

月次が見えるようになると、「まだ受注していない案件も、ある程度は見込みに入れたい」と思うようになりました。それでヨミ按分を足しました。

この順番は、最初に机の上で考えても絶対に出てこなかったと思います。

仮に最初から完璧な仕様書を作ろうとしていたら、ヨミ按分のような機能は思いつかないまま、逆に「あったら便利そう」という理由で、結局使わない機能をいくつも作っていたはずです。

ベンダー側にいたときの反省でもあります

正直に申し上げると、これは自分自身への反省でもあります。

システム開発の現場では、最初に要件定義をして、仕様書を作って、承認をもらってから開発に入るのが一般的です。規模が大きい案件では、この進め方に合理性があります。

ただ、その方式では「使ってみないと分からないこと」を仕様書に書くことができません。だから、納品したあとに「思っていたのと違う」という話が起きます。お客様が悪いわけでも、こちらの聞き取りが甘かったわけでもなく、構造的にそうなりやすいのです。

小さく作って、使ってもらって、直す。この進め方であれば、その問題の多くは避けられます。そして今は、生成AIのおかげで「小さく作る」のコストが、以前とは比べものにならないほど下がりました。

これは、自社だけの話ではありません

案件管理に限らず、日報、経費精算、在庫の簡易管理、現場からの報告——中小企業で「Excelで何とかしている」業務の多くは、同じやり方で解消できます。

ポイントは3つです。

  1. いちばん困っている1画面だけを作る。全部を設計しない
  2. 実際に1〜2週間使ってみる。使わなければ次に何が要るかは分からない
  3. 出てきた不満を足していく。この繰り返しが結局いちばん速い

当社がお客様先でやっているのも、まったく同じ進め方です。定例の場で「いま何に困っているか」を聞き、次の回までに動くものを持っていく。使ってもらって、直す。これを毎月繰り返します。

明日からできること:まず1画面だけ作る

自社で試してみたい方へ、最初の一歩をご提案します。

  1. いま複数のExcelに分かれている情報を、1つの表にまとめる。これだけでも効果があります
  2. その表で「毎回やっている手作業」を1つ選ぶ。集計、転記、並べ替えなど
  3. その1つだけを自動化してみる。生成AIに手順を相談しながらで構いません
  4. 2週間使ってみて、次に何が欲しくなったかをメモする

4つめが、いちばん大事です。そのメモこそが、本物の要件だからです。

まとめ

市販のツールが自社に合わないとき、選択肢は「我慢して使う」か「高いお金を払って作ってもらう」の二択ではありません。

スプレッドシートとGASのような身近な手段でも、日々の業務を回すには十分なものが作れます。そして小さく作って、使いながら育てるやり方が、結局いちばん速く、いちばん安く済みます。

とはいえ、社内に手を動かせる人がいない、あるいはデータの結びつけ方で行き詰まっている、という会社も多いと思います。そうした場合は、30分の無料相談でご一緒に整理します。「こんなものが作れるのか」という確認だけでも構いません。

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