自治体主催の「個社別DXリーダー人材育成研修」で、講師を務めさせていただきました。1つの会社に対して全3回にわたり伴走する、個社別の研修プログラムです。私は中小企業診断士として、また公的支援機関で経営相談を受ける立場から、日々多くの中小企業のDX・IT活用のご相談に関わっています。この記事では、その研修の第1回「インプットと現状分析」の様子を、進め方の考え方とあわせてご紹介します。
受講いただいたのは、地域に根ざした事業を営む中小企業の現場リーダーの皆さんです。全3回の流れは「①現状分析 → ②課題の深掘り → ③解決策と行動計画」。実はこの研修、生成AIが本格的に登場するのは最終回だけです。なぜそういう組み立てにしているのかも含めて、順にお伝えしていきます。
「集合研修」ではなく「個社別」であることの意味
DX研修というと、複数社の担当者が集まってツールの使い方や事例を学ぶ集合研修を思い浮かべる方が多いと思います。今回の研修はそうではなく、1社の業務そのものを教材にする個社別形式です。
集合研修で学んだ内容は「自社に置き換える」という一段の翻訳が必要になり、そこで止まってしまうケースを何度も見てきました。個社別であれば、扱う題材は最初から自社の受注業務であり、自社の在庫管理です。翻訳の工程がないぶん、学びがそのまま行動につながりやすくなります。
座学は最小限──「DXとは何か」より「なぜ自社に必要か」
第1回の冒頭では、経済産業省の資料(DX支援ガイダンスなど)を引用しながら、DXの定義と必要性を確認しました。ただし、ここに時間はかけません。大事なのは定義の暗記ではなく、「ツールを入れること」と「業務ややり方を変えること」は別物だという一点が腹に落ちることだからです。
DXの本質は、デジタルを使って業務や仕事の進め方を変革すること。システムを導入しても、業務が変わらなければそれはDXではありません。この前提を最初に共有しておくと、後の回で「どのツールにするか」より先に「どの業務をどう変えるか」を考える姿勢が生まれます。
7業種の成功事例──「自社に近い会社」から発想する
インプットの中心は、建設、士業、飲食、運輸、介護、小売など7つの業種の中小企業DX成功事例です。ここでのポイントは、有名企業の華やかな事例ではなく、規模感の近い会社の事例を選ぶことです。
大企業の事例は「うちとは違う」で終わってしまいます。一方、自社と同じくらいの規模の会社が、紙とFAXの業務をどう変えたかという話は、「それならうちでもできるかもしれない」という当事者意識を引き出します。事例は知識として学ぶものではなく、自社の発想を広げる呼び水として使う。これが個社別研修での事例の使い方です。
メインワーク──業務フロー図と業務一覧表を自分の手で書く
第1回の中心は座学ではなく、手を動かすワークです。参加者の皆さんに、自分の担当業務について次の2つを書いてもらいました。
- 業務フロー図:仕事の流れを「誰が・何を使って・何をするか」の順に図にする
- 業務一覧表:日々の業務を洗い出し、頻度や所要時間とあわせて一覧にする
あわせて、現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)の考え方や、要件に優先順位をつけるMoSCoW分析(「必須・あるべき・できれば・今回は見送る」の4段階で仕分ける手法)、システム検討の準備の全体像もお伝えしました。将来システム導入や生成AI活用を検討するときに、この日の成果物がそのまま検討の土台になります。
なぜ自分の手で書いてもらうのか。それは、属人化や二度手間は、書き出して初めて見えるからです。頭の中にあるうちは「いつもの仕事」でしかありません。図にした瞬間、「この転記、必要なのか?」「これは自分しかやり方を知らない」という気づきが生まれます。実際、ワークの途中で「思っていたより手作業が多い」という声が上がりました。この驚きこそが、第1回のいちばんの成果です。
第1回を終えて──現状分析がすべての起点
システム導入も、生成AI活用も、補助金の申請も、起点は必ず現状分析です。ここを飛ばして「何かいいツールはないか」から入ると、高い確率で道具選びだけが先行し、業務は変わりません。
もし自社で今日から始めるなら、まずはA4用紙1枚に、朝出社してから夕方までの自分の仕事の流れを書き出してみてください。それだけでも、無意識にやっている二度手間や手作業が驚くほど見えてきます。
次回の第2回は、この業務一覧を出発点に、課題を発見して深掘りするフェーズに進みます。「時間がない」という漠然とした悩みの正体を、なぜなぜ分析で掘り下げていきます。続きは第2回「課題発見と深掘り」のレポートをご覧ください。
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