自治体主催の「個社別DXリーダー人材育成研修」(全3回)の実施レポート、いよいよ最終回です。第1回で業務の現状分析を行い、第2回で課題の発見と深掘りを行いました。最終回のテーマは「解決策の立案と行動計画」。ここで初めて、生成AIが本格的に登場します。
私は中小企業診断士として、生成AI活用の研修や伴走支援を数多く行っていますが、この研修で生成AIを最終回まで温存したのには理由があります。まずはそこからお話しします。
最終回でようやく生成AIが登場する理由
「生成AI研修」と銘打った研修の多くは、初回からツールの操作を教えます。それ自体は悪くないのですが、操作を覚えても「自社のどの業務に使えばいいか」が分からず、結局メールの下書きだけで止まってしまう──というご相談を、私は何度も受けてきました。
生成AIは解決策の1つです。そして解決策が刺さるかどうかは、課題がどれだけ整理されているかで決まります。第1回で業務を書き出し、第2回で課題を構造化してきたからこそ、最終回では「この二度手間のここに、AIをこう当てる」という具体的な議論ができました。順番が逆だと、道具だけが宙に浮きます。
生成AIの基礎──ツールの比較と「任せる範囲」の線引き
とはいえ、基礎のインプットは必要です。ChatGPT・Gemini・Claudeという主要な生成AIの特徴と使い分け、無料版と法人利用での違い、そしてどこまでAIに任せ、どこから人が判断するのかという境界線の考え方をお伝えしました。機密情報の扱い方など、業務で使う以上避けて通れないルールの話も含みます。
導入の進め方についても、いきなり全社展開するのではなく、小さく試して、効果を確かめて、広げるという段階を踏むことをお伝えしました。あわせて、業務での具体的な活用例として、メール作成、Excel作業の補助、需要予測や在庫のシミュレーション、マニュアル作成といった、この会社の課題に直結する使い方を紹介しました。
その場で動かす──Google AI Studioで倉庫棚卸アプリを実演
最終回のハイライトは、Google AI Studioを使って、倉庫の棚卸を補助するアプリをその場で作ってみせる実演でした。プログラミングの知識がなくても、AIと会話しながらアプリの形にしていく――いわゆる「バイブコーディング」と呼ばれる手法です。
画面の中で自社の業務を模したアプリが動き始めた瞬間、会場の空気が変わりました。「システムはベンダーに頼んで作ってもらうもの」という前提が、「自分たちでも試作くらいは作れるかもしれない」に変わる。この体感こそ、スライド100枚の説明より価値があると思っています。もちろん、試作と本番運用の間には超えるべき壁があります。それでも「まず自分で動くものを作って確かめる」という選択肢を持てたことは、大きな一歩です。
解決策に優先順位をつける──インパクト×実現可能性
ここまでで、解決策の候補はたくさん挙がりました。しかし全部はやれません。そこで「効果の大きさ(インパクト)」と「実現のしやすさ」の2軸のマトリクスに各施策を配置し、効果が大きく、かつ実現しやすいものから着手するという優先順位を全員で決めました。
この作業の価値は、「やらないことを決められる」点にあります。あれもこれもと手を広げて全部が中途半端になるのは、中小企業のDXでいちばん多い失敗パターンだからです。
アクションプランと、社長の前でのコミットメント発表
最後の仕上げは、行動計画づくりです。優先順位の高い施策について、「何を・誰が・いつまでに・どの指標(KPI)で測り・いくらの予算で」やるのかを1枚のアクションプランに落とし込みました。
そして研修の締めくくりに、参加者の皆さんから社長へ向けてのコミットメント発表を行いました。自分の言葉で計画を語り、社長がその場で承認する。研修が「いい話を聞いた」で終わらず、経営の意思決定とセットで現場の行動につながる仕掛けです。発表する皆さんの表情が、初回とはまったく違っていたのが印象的でした。
全3回を終えて──AIは選択肢の1つ、成果は行動計画から生まれる
全3回を振り返ると、この研修でやったことは「①業務を書き出す → ②課題を構造化する → ③解決策を選んで行動計画にする」という、業務改善の王道そのものです。生成AIはその中の強力な選択肢の1つとして登場しました。この順番こそが、ツールの学習で終わらないDX研修の鍵だと考えています。
自社で今日から意識するなら、社内で「AIで何かできないか」という話が出たときに、「その業務の現状の流れは書き出せているか?」を先に問うてみてください。書けていなければ、そこが本当のスタート地点です。